広島地方裁判所 昭和46年(行ク)8号 決定 1971年4月15日
申立人
川嶋澄夫
弁護士
高井和美
外二名
被申立人
広島県公安委員会
指定代理人
片山邦宏
外六名
主文
一、申立人の昭和四六年四月一三日付集団運動許可申請に対し被申立人が同月一五日付指令第五号をもつてした不許可処分のうち、実施日時昭和四六年四月一六日午後八時から午後一〇時、実施場所平和公園前→大手町筋→本通り→紙屋町→白神交差点→広大前とある部分の効力を停止する。
二、申立人のその余の申立を却下する
三、申立費用は被申立人の負担とする。
理由
一、申立の趣旨および理由
別紙「行政処分執行停止申立書」記載のとおり
二、被申立人の意見
別紙「意見書」記載のとおり
三、当裁判所の判断
1、疎明によれば、申立人は昭和四四年一月頃、広島大学学生らによつて結成されて、広島大学全学共闘会議(以下全共闘という)の代表者であるところ、昭和四六年四月一五日、一六、一七日の天皇来広に際し、右天皇来広に抗議する意思表示をするために、同年同月一六日午後七時から、広島市内で集団示威運動を行なうことを決定し、同年同月一三日昭和三六年広島県条例第一三号「集団示威運動、集団行進及び集会に関する条例」(以下、県条例という)四条五条に基づき、別紙のとおり被申立人に対し右集団示威運動の申請したこと、しかるに被申立人が県条例四条六条一項に基づき、左記の理由で右申請を不許可にしたことが認められる。
記
本件集団運動は県内外の右翼団体を刺激し、相当激しい衝突など不測の事態が発生することが明らかである。さらに天皇を奉迎する一般市民の心情をも害することになり、各所において各種の混乱が生じるなど、公共の安全と秩序に対して、直接危険をおよぼすことが明らかである。
2、ところでおよそ集団示威運動の本質(憲法二一条の保障する表現の自由の類型の一である)にかんがみ、また本件集団示威運動の目的に照しても、本件不許可処分の効力停止を求める本件申立が申立人にとつて回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があることは明らかである。
3、さて、前記認定の事実によれば、被申立人の本件集団示威運動の申請を不許可にした理由は前記の如くであるが、しかし、本件疎明資料によれば、申立人申請にかかる本件集団示威運動は、四月一六日天皇皇后両陛下が市内各地の行幸啓先を訪問後、宿所たる広島グランドホテルに帰館(一五時五〇分帰館予定)され、同日予定されている行幸啓順路の交通規制も終了した後に出発するものであり、かかる本件集団示威運動の時間、場所、参加予定人員等にかんがみると、本件集団示威運動を実施することが直ちに天皇を奉迎しようとする一般市民を刺激し、暴力行為を惹起する等公共の安全と秩序に対し直接危険を及ぼすことが明らかな場合にあたるものとは解しがたい。また被申立人は全共闘の暴力的傾向を指摘するが、本件疎明資料から全共闘の性格を如何に見るかはともかくとして全共闘の計画した本件集団示威行進が直ちに何らかの暴力行為を触発し公共の安全と秩序に対し明白且重大な危険を及ぼすおそれがあると速断するわけにもいかない。
しかしながら、また一方本件疏明資料によれば同日は愛国戦線同盟広島支局による天皇来広糾弾デモ粉砕のための集団示威運動も計画され、右集団示威運動の主催者たる大森覚の申請によれば、本件集団示威運動と時間、場所において極めて接近するものがあることが認められる。かように目的の相反する二つの団体が同じ時間同じ場所を集団示威行進するときは、両者の間に衝突を生じる危険が大であることはこれを認めざるを得ないから、この限度では被申立人が本件集団運動が公共の安全と秩序に対して直接危険を及ぼすことが明らかであると判断したことも誠に無理からぬものがあると解しえないではないけれども、このような危険は二つの示威運動の時間、場所を適当に規整することにより回避しうべきものである。
したがつて、被申立人がかかる危険の蓋然性があることを以つて直ちに本件申請にかかる集団示威運動を全面的に禁止したことは相当でなく、本件疏明資料とりわけ疏乙第五号証と疏乙第一四号証を対比しつつ検討すると、本件集団示威運動の開始時間を午後七時から午後八時に一時間ずらしただけでも右の如き危険を相当程度避けうるものと解される。
4、以上の理由により本件申立は主文掲記の範囲内においては本案について理由がないとはいえないので正当としてこれを認容し、その余は本案について理由がないと一応判断されるので却下すべきものとし、申立費用については民事訴訟法八九条九二条但書を適用して主文のとおり決定する。(加藤宏 海老沢美広 安原浩)
<別紙略>